記事:統合失調症治療の新しい戦略

統合失調症は世界中で認められる比較的ありふれた精神疾患です。この病気は慢性に進行して幻聴や妄想などとても厄介な症状によって、患者さん本人だけではなくご家族もとても辛い思いを強いられる病気です。これまで統合失調症はドパミンD2受容体がそのターゲットとなっていて、1950年代から始まった薬物療法の変遷の中で、現在使われているいずれの薬剤も占拠率の差こそあれ直接D2受容体に結合し、ドパミン量を調節しているものです。しかし、この論文で報告されている新しい薬剤は、ドパミン受容体ではなく、微量アミノ関連受容体1 (TAAR1)とセロトニン5-HT1A受容体のアゴニスト作用があることが分かっており、間接的なドパミン放出への関与はあると思われるものの、全く新しい作用機序での統合失調症治療への効果、それもかなり良好な効果が示されました。まだ、治験段階で臨床使用には少しかかるかもしれませんが、今回の論文で小規模120名の患者群と125名のプラセボ群でその効果と安全性が確認されており、これまで治療につきものだったパーキンソン症状(錐体外路症状)がないということは特筆すべき特徴で、なるべく早く臨床応用されることを期待します。また、この薬の効果次第という条件付きですが、これまでとは違った病態解明がなされることになり、ちょっとしたブレイクスルーになるかもしれません。