Fluvoxamine vs Placebo and Clinical Deterioration in Outpatients With Symptomatic COVID-19 JAMA 2020.11.12
あけましておめでとうございます。2020年は大変な年でしたね。長崎も新型コロナウイルス感染者が増えていて、今年もまだまだ大変な状況は続きそうです。
さて、ドラッグ・リポジショニング (Drug repositioning)という言葉をご存知でしょうか。最近ニュース番組でもこの言葉を聞く機会が最近増えてきたのですが、既に使用されている薬を別の疾患に対して使ってみて有効性を調べて、適応を拡げるということです。せっかく莫大な予算をかけて開発した薬がそのまま廃れていくのはもったいないという精神からなのでしょうが、既に人体への安全性が確立しているので、開発費が安く抑えられ、そして早く流通できるという利点があり、今ではいろんな分野の疾患に応用されています。精神神経領域でもこのリポジショニングが多く適応されていて、パーキンソン病の薬がインフルエンザの予防薬として適応になったり驚きの変身を遂げることがあります。
今回紹介する報告はうつ病や不安障害、強迫性障害の治療薬として広く使われているルボックス(フルボキサミン)が新型コロナウイルスの重症化を抑制する効果があるのではという内容で、とても権威あるJAMAという雑誌に載っていました。ミズーリ州とイリノイ州で治験が行われ、152名(フルボキサミン群80名、プラセボ72名)の比較的小規模なトライアルですが、その中で重症化した者はプラセボ群で6名 (8.3%)いたのに対してフルボキサミン服用群にはゼロだったという結果でした。フルボキサミンがシグマ1受容体に親和性が高いこと、そこからサイトカイン産生を何らかの形で調整していることが、重症化を防いでいる要因と推測されていますが、まだ詳しいことは分かっていないようです。
かなり小規模の集団での結果であることや、アメリカの限定された地域だけでしか調査していないことなど、フルボキサミンが重症化を防ぐと結論づけるにはまだ時期尚早ですが、2019年にもフルボキサミンが敗血症を防ぐという内容の論文も発表されているので、免疫学的に好影響を与えているのは間違いなさそうです。
ただ、これはあくまで”重症化を防ぐ”という内容で、感染予防に役立っているわけではありません。やっぱりかからないようにするのが一番です。