記事:飲酒による警戒心、集中力の低下の理由

Ethanol abolishes vigilance-dependent astroglia network activation in mice by inhibiting norepinephrine release.  Nature communications 02DEC 2020  

日本では飲酒運転が厳罰化されてきて、最近では「飲んだら運転してはいけない」ということが定着してきているように思えます。飲んだら運転してはいけないのは何故か?お酒を飲んだら事故を起こしやすいというのが根本的な理由なんでしょうけれども、どうして事故を起こしやすくなるのかっていうのは分子レベルでは分かってなかったらしいのです。この論文はそこがテーマで「エタノールは、ノルエピネフリン放出を阻害することにより、警戒に依存するアストログリアネットワークの活性化を無効にする」という表題です。つまり、お酒による注意力低下は、集中力を高めるノルアドレナリンの生成をブロックする事によるということが分かったという内容です。警戒心はノルアドレナリン放出によってアストログリアのカルシウム濃度が上昇して生まれるのですが、エタノールによってノルアドレナリン生成が抑えられることによってカルシウム濃度の上昇が大幅に制限されるようで、このことによって警戒心、集中力が低下するのだと言っています。

今回の論文はアルコールの急性反応なので、慢性的な変化については言及されていません。でも、お酒によってノルアドレナリン生成が抑えられるという事実は、一過性の注意力低下ということだけでなく、飲酒の長期的な変化としてノルアドレナリンの慢性的な低下がうつ病への移行に繋がる可能性があります。アルコール依存症患者にうつ病の罹患率が高く自殺率が高いということともひょっとしたらこのことと関連しているのかもしれません。