記事:新型コロナウイルスの入り口?

長崎市でもクルーズ船でCOVID-19患者のクラスターが発生して、これまでどこか対岸での出来事と感じていたのですが、そのニュース以降長崎市民は混乱の渦中となってしまいました。ワクチンや治療薬の開発が待たれる中、少しずつウイルスの仕組みが解明されてきています。そんな中、治療薬開発の良い兆しになりそうな論文を見つけました。(Cell 2020/4/16 )

ウイルスは細胞内に侵入→増殖、それにより様々な病状を呈する訳ですが、どうやら侵入の手助けを図らずもしているのが、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)受容体という、普段は血圧の調整をするための重要な受容体として働いているものです。奇しくもその受容体にピッタリと新型コロナウイルスがくっついて、ウイルスの侵入のとっかかりになってしまって、一旦ウイルスが侵入すると、本来の血圧調整機能を果たせなくなってしまうようで、感染者の中で高血圧の方が重症化する理由の一つに推測されています。また、新型コロナウイルスはACE2受容体にくっついた後、細胞膜にあるタンパク質分解TMPRSS2酵素がウイルスのタンパク質をちょうどヒトの細胞に溶け込みやすいようにに切断して、ちょうど良い形になって細胞に融合してしまう。もともとヒトの体に備わっている受容体や酵素の力を借りながらグイグイと細胞内に侵入してくるらしいのです。そして、RNAを注入し、細胞をいわば工場のようにしてウイルスを大量に自己複製して増殖し、症状を引き起こします。肺のACE2受容体の発現量が上昇する作用のある喫煙や心疾患、慢性閉塞性肺疾患など持病持ちの人が悪化する傾向があったり、一般的にTMPRSS2発現量が多いと言われる男性の方が重症化する傾向があるのも、この説を裏付けるものかもしれません。今後はACE2受容体の発現量やTMPRSS2活性を阻害するような治療薬が待たれるところです。

ちなみに一時期話題になった日本のカスモタットメシル酸(フオイパン)がTMPRSS2活性を阻害する作用を持っており、予防や発症直後の薬としての可能性が示唆されています。

クルーズ船のニュース以降、恐怖や不安で外に出られないという方が多く、適切な治療が受けられない方も多くいらっしゃいます。本当に早く収束してほしいものです。