記事:乳酸の抗うつ作用

Role of adult hippocampal neurogenesis in the antidepressant actions of lactate. Molecular Psychiatry 2021. 5. 14号

  運動は気分と密接な関係があるということが科学的に証明されてきています。代表的なものとして、2017年スウェーデンのカロリンスカ研究所からCell誌上に発表されたキヌレニン経路とうつの関連性について証明した論文がありましたが、今回は運動時に蓄積する乳酸とうつの関係について調べた論文を紹介したいと思います。

  乳酸は運動後にたまる物質として知られています。以前は、乳酸は疲労の原因物質と考えられていましたが、今では疲労の直接原因ではない、むしろ疲労を回復する作用があるという報告がなされていました。

  そんな中、スイスの研究チームは、この論文で乳酸に疲労回復効果だけではなく、抗うつ作用があることを実証しました。うつ病になると、海馬での神経細胞の生成が減るという現象が起こります。乳酸を与えたうつ病のモデルマウスでは海馬の神経細胞の新生が改善する効果があったということを証明し、それが抗うつ効果に結びつくということでした。

  ただ、乳酸を投与しても神経新生がみられないこともあり、どの程度の量の乳酸で抗うつ効果が得られるかどうかはまだ未知のようでした。しかしながら、これまでとは違うアプローチでの抗うつ薬開発が期待できる報告だと思います。