A unique missense variant in the E1A-binding protein P400 gene is implicated in schizophrenia by whole-exome sequencing and mutant mouse models. Translational psychiatry 18Feb2021
つい先日、論文がアメリカの科学誌に掲載されました。長崎大学病院精神科の森本先生が大学院に進んだ時に、何か新しいプロジェクトを立ち上げようと思い立ってそこから9年、多くの方々に協力頂いてようやく論文という一つの形になりました。思い起こせば、ある方は長崎市から3時間ほどかかる地区の老人ホームまで足を運び、またある方は病院の保護室の中まで入らせてもらって採血させて頂いたり、ある家系の患者さん達から検体を採取するところから始まって、そこから県内の多くの精神科病院に協力いただいて何百もの検体を自分たちの足で集めた、苦労の多いとても思い入れが深い仕事でした。私たちの2018年のパニック障害の研究論文と同じ科学雑誌(Translational Psychiatry)に掲載されているのですが、パニック障害の患者さんの検体は、幸運にもビュルツブルグ大学や東京大学に多大なご協力を頂いて既に保管してあるものを使用させて頂いたことや、実験の多くの部分を東大の音羽先生、杉本先生が素早く完了してくださったこと、モデルマウスの実験は行わなかったことから非常にスムーズにまとめることが出来ましたが、単なるゲノム解析に終わっていたことは消化不良をどこかで感じていました。その点で今回の研究は、大きな消化不良感なく完結したと感じています。
この論文を簡潔にまとめると、これまで統合失調症の原因遺伝子として報告がない新規の遺伝子(EP400)変異が、統合失調症多発家系の患者さん達に共通の変異となっていることをゲノムシーケンスで突き止めて、その変異を導入したマウスを用いて、神経細胞のミクロレベルから異変を生じて統合失調様の病状が作り出されることを証明した、ということになります。双方向での証明をしているとてもインパクトのある内容で、今後の病態解明につながる仕事だと思っています。一方で、もっと私が社交的で行動力のある人間だったら、もっと大規模な再現性の高いデータがもっと早く発表できて、より大きなインパクトがあったのではないかと自責の念も感じてしまいました。