最近、腸内細菌と疾患の関連性についての論文をよく見かけるようになりました。精神領域でも腸内細菌であるロイテリ菌と社会行動異常との関連性が示されたりなど報告がなされており、十年後くらいには精神科領域でも腸内細菌移植が治療の選択肢の一つになるのではないかと感じています。今日紹介する論文は、ありふれたコレステロールを下げる薬であるスタチン系薬剤の継続的な服用が腸内細菌のパターンを変え、それが健康につながっているという内容でした。もちろん薬そのものの効果によってコレステロールが下がって心血管系の疾患にかかりにくくなるということもあるでしょうが、どうやらスタチン系薬剤を飲み続けることにより、炎症に強く関与しているBact2エンテロタイプ(エンテロタイプというのは腸内の微生物プロファイルを微生物種の量に応じて4つのグループに分けたものです)から他のエンテロタイプに変わっている可能性が考えられ、その変化が病気のかかりにくさにつながっているというのです。Bact2エンテロタイプによって生成されやすいトリメチルアミンオキシドなどの毒性物質が動脈硬化症を加速させるということに言及しており、スタチン系の薬剤服用がその毒性物質を抑えるような腸内細菌バランスを作り出しているのではないかということのようです。
ただ、薬を飲み続けるような健康意識の高い人たちなので、薬以外にも食生活や運動など健康向上に関することを意識して行っている可能性もあり、必ずしも薬だけの影響で腸内細菌の分布が変わったと言い切れないわけで、この点はまだ議論の余地が残るところです。それでもやはり、この論文のように、薬による直接的な変化だけではなく、間接的で長期的な変化に焦点を当てる研究というのは、また違った治療法が生まれる可能性もあるという意味でとても面白いと思います。
例えばうつ病の治療薬としてスタンダードな治療法であるセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、服用してすぐにセロトニン濃度を上げますが、抗うつ効果は2週間から4週間経ってようやくあらわれます。このことはうつ病治療の根幹はセロトニン濃度を上げることではなく、セロトニン濃度が上がったことによって得られる何か別の機序である可能性を示唆しています。それがひょっとしたら腸内の細菌叢の変化である可能性も…ちょっと飛躍しましたが、まったくあり得ない話ではないと思います。