記事:睡眠薬と認知症の関連性

Benzodiazepine use in relation to long-term dementia risk and imaging markers of neurodegeneration: a population-based study

2024.7.2 BMC medicine

古典的な睡眠薬であるベンゾジアゼピン系の薬剤と認知症の関連についてはこれまで様々な議論がなされてきました。2022年の2本のメタアナライシス(①Is there a link between the use of benzodiazepines and related drugs and dementia? A systematic review of reviews. Eur Geriatr Med. 2022;13(1):19–32., ②AlDawsari A, Bushell TJ, Abutheraa N, Sakata S, Al Hussain S, Kurdi A. Use of sedative-hypnotic medications and risk of dementia: a systematic review and meta-analysis. Br J Clin Pharmacol. 2022;88(4):1567–89.)ではベンゾジアゼピン系薬剤は認知症を引き起こしやすいという結果が出ていましたが、方法論などから結論づけるのは少し無理がありそうだと感じていました。

確かに睡眠薬を服用せずに眠れるのであればそれに越したことはありませんが、無理をして服用せずに眠れない状況を作ってしまうことはグリンパティックシステムの観点上有害度が高いと思えます。

この論文は、5400人の健常成人を対象にベンゾジアゼピン系薬剤による長期的な影響について調べています。5443人の調査対象者のうち、2697人(49.5%→この研究はオランダの施設発ですが、オランダは思ったより使用率が高い)が何らかのベンゾジアゼピン系薬剤を使用しており、そのうち1263人が抗不安薬を、530人が睡眠薬を、904人がその両方を使用し、平均11.2年に及ぶ追跡期間中に726人(13.3%)が認知症を発症したそうです。統計学的解析の結果、累積用量に関係なく不使用の場合と比べて認知症の発症リスクは増加することはありませんでした。抗不安薬の方が睡眠薬と比べてわずかにリスクは高かったようですが、これも統計学的な有意差はなかったとの結果でした。

ベンゾジアゼピン系薬剤は直接的に認知症のリスクを増加させないという結論を支持する一方で、脳MRIの結果からはベンゾジアゼピン系薬剤の長期使用による海馬、扁桃体の萎縮が有意にみられたとのことで、長期使用による脳の形態学的変化が示唆されていました。その形態学的変化の蓄積がどの程度で認知症を発症するのか、どの程度の期間服用することでその変化が出てくるのかなどまだまだ不明な点が多く、今後のさらなる研究が待たれるところです。